「ボディーガーーーード!!」
ガンを手にした男の体が、鋭い爪によって引き裂かれた。少年の絶叫が、赤く爛れた空を突き抜ける。地の底から蘇った獣は街を燃やしつくしたが、それだけでは飽き足りないというように天に吼えている。
旅の目的は、あまりに強大だった。仲間は全て倒れ、事切れたのかさえ分からない。この上長年連れ沿った相手までをも、自分から奪うというのか。アマデウスは大地についた指に力を込め、爪に土を食い込ませた。
「…ッ許さない!」
アマデウスは獣の懐に走り込んだ。手に持ったナイフで、ありったけの力を込めて刺す。しかし獣の皮膚は鋼鉄のように硬く、獣は表情をにたあっと変えたかと思うと、腕で少年を振り払った。…ごふっ。脇腹にもろに打撃をくらい、少年の体は一瞬空を飛んで、ゴミのように投げ捨てられた。
「アマデウス様ーーー!!」
胸を血で染め、意識も遠くしていた黒服の男は、地に落ちた小さな体を受け止める事もできず、おのが無力を目の前にした。
「…っく」
主人をあざ笑い、獣の気が削がれたのを男は見逃さなかった。(エリー、俺に力をくれ)ガンに込めた最後の弾丸で、真っ直ぐに獣の鼻先を狙い、打った。辺りに轟く断末魔を、男は失われていく意識の中で聞いた。
「…ガード、ボディーガード!!」
冷たいものが頬にはね返り、男は目覚めた。金色の髪を汚した少年がいた。男はグラス越しにしか、主人の顔を眺めたことがない。それでも、主人は確かにその名にみ合う美貌を備えていた。…今見上げる彼は、どこにでもいる子供のように泣いている。
「アマデウス様…ご無事で何よりです」
「喋るな、血が噴き出す!」
傷口を押さえようとするアマデウスの手を、男は自分の右手に収めた。
「いいのです…裏切り者と呼ばれて当然の私をおそばに置いてくださったこと…感謝しております。せめて最後だけでもお役に立ちたかった。私の願いは叶ったでしょうか…」
「当たり前だ!」
よかったと呟き、男は目を閉じた。少年が自分の名前を呼ぶ声が遠くなる。次に出会うとき、俺はただの執事でありたいと、男はぼんやりと願った。
男が逝ってから、アマデウスは、彼がいつも身につけているサングラスをとった。安らかな顔だった。少年は涙を服の裾で拭き、立ち上がった。
(生きてみせる―これからも)
瓦礫となった街を、夕日が赤く染め上げていた。
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